質の高い臨床研究を推進するには、研究コンサルテーションは欠かせない
研究倫理支援室では、医学研究者が倫理的に適切な研究を円滑に実施できるよう、研究倫理支援サービスの質の向上を心がけ、日々の業務に取り組んでいます。
では、実際に研究倫理支援室に相談を寄せてくださる研究者の皆様から見て、私たちはどのように映っているのでしょうか。現場の率直な声を伺い、今後のよりよい研究支援につなげていくことを目的に、研究者の方々に話を聞いていきます。
今回お話を伺ったのは、『東京大学医学部附属病院 消化器内科 肝臓がん治療チーム』に所属される建石良介准教授と山田友春助教です。「自分たちが出会ったことのない患者さんにも恩恵をもたらす」ことを目標に、数多くの臨床研究を推進されている同チームからは、これまでに多くの相談を研究倫理支援室にいただいてきました。
臨床研究を取り巻く環境は年々変化し、制度は高度化しています。そのなかで、研究倫理の意味とは何か。そして、それを支える研究倫理支援室はどのような存在として受け止められているのか。お二人に率直な思いを伺いました。
臨床研究を推進する、その背景にある想い
--- 今日はよろしくお願いします。はじめに、簡単に自己紹介をお願いしてもよろしいでしょうか。
建石
山田
建石のもとで、同じ肝臓チームの一員として臨床研究に携わっています。過去には、国内留学という形で、基礎研究に近いトランスレーショナルリサーチに取り組む機会もいただきました。そうした経験もあり、現在はレジストリを中心とした多機関共同研究から、トランスレーショナルリサーチまで、少し幅をもって研究に取り組んでいます。
--- 建石先生たちのチームからは、これまで多くの相談を研究倫理支援室にいただいており、研究に対する熱量の高さを常に感じています。そうした文化は、自然に育まれてきたものなのでしょうか?
建石
正直に言うと、「研究をやりなさい」と強く言うことは、あまりないんですよ。
研究は、上から押し付けても長続きしない。やらされている研究は、どこかで熱量が落ちてしまいますし、最後まで責任を持ってやり切るのは難しい。やはり、自分の中から出てきた疑問や問題意識でなければ、本当の意味での研究にはならないのではないかと。
建石
ですから、チームとしては「どういう研究をやりたいのか」という声が、メンバーの側から上がってくるのを大切にしています。問いを持つこと、その問いを口に出せること、そして挑戦してみようと思えること。そうした空気をつくることのほうが、具体的なテーマを与えることよりも重要だと考えています。
研究文化というのは、指示でつくるものではなく、育てていくものだと思っています。誰かが一歩踏み出すと、それを見た後輩が刺激を受ける。そうやって少しずつ広がっていく。その連鎖を止めないことが、チームとしての役割ではないかと感じています。
--- 自主性を大切にされているからこそ、チーム全体の研究熱量が高まっているのだと感じました。その中で、山田先生ご自身は、大学という場で研究に取り組むことにどのような意味を見出していらっしゃいますか?
山田
少し自分を引いて考えたときに、「医師として、どこで働くか」という問いをよく考えるんです。大学で仕事をしている医師は、全体から見れば決して多くありません。それが偉いという話ではありませんし、市中病院で日々最前線に立っている先生方こそ、多くの患者さんに必要とされている存在だと思います。
では、大学で臨床や研究をすることの意味は何か。市中病院と同じマインドで、同じように診療をするだけであれば、大学である必要はどこにあるのか、と自問することがあります。
大学には、医学を少しでも前に進められる可能性がある。そして、それこそが使命なのではないかと思っています。最先端の情報を取り入れ、最善の治療を提供することはもちろんですが、それだけでなく、それぞれの疾患において「何か一つでも前進させる」ことが求められているのではないか、と。
--- そのように考えるようになった背景には、何か印象的な出来事があったのでしょうか?
山田
研修医の頃にテキサス大学MDアンダーソンがんセンターを見学した際、患者さんの多くが複数の臨床研究に参加していると聞き、とても衝撃を受けました。研究が特別なものではなく、診療と地続きになっている。その光景が強く印象に残っています。
だからこそ、肝臓チームでも、各疾患に何らかの臨床研究を持ちたいと考えています。一人ひとりが少なくとも一つはテーマを持ち、何らかの形で医学を前に進めようとする。それが、大学で臨床に携わる者のあるべき姿ではないかと思っています。
実際、今年は肝臓チームから多くの臨床研究が立ち上がっていますが、それはメンバー一人ひとりのモチベーションの高さの表れだと思います。大学で臨床を続けるのであれば、自分なりの問いを持ち、自分なりのテーマで挑戦する。その姿勢は大切にしたいですね。
挑戦を続けるには、構造的な支えが必要
--- 一方で、臨床研究を取り巻く環境は年々変化しています。現場としては、どのような課題を感じていらっしゃいますか?
建石
ここ10年ほどで、研究を取り巻く環境は大きく変わりました。求められる水準が、明らかに上がっています。
個人情報保護やデータ管理、利益相反の申告、海外レギュレーションとの整合など、考慮すべき事項が増えました。研究の科学的妥当性だけでなく、社会的な説明責任まで含めて問われる時代になっています。
--- 研究の内容だけでなく、周辺環境も変化しているということでしょうか?
建石
そうですね。研究そのものの難易度が上がっているというよりは、研究を実施するための条件が厳格になってきている印象です。
臨床研究の規模も大きくなっていますし、質の担保がより強く求められるようになっています。それ自体は、研究の信頼性を高めるという意味で重要なことです。ただ、その分、現場の負担が増えているのも事実です。
山田
若い研究者の立場からすると、「研究をやりたい」と思っても、最初の一歩で立ち止まってしまうことはあります。
どの区分に該当するのか、倫理審査はどのレベルか、登録は必要か、どこまで準備すればいいのか。医学部の教育の中で、研究運営の実務を体系的に学ぶ機会はそれほど多くありません。ですから、実際に取り組みながら覚えていくしかない。そのハードルは、決して低くはありません。
--- 制度の厳格化が、研究への挑戦をためらわせる側面もあるのでしょうか?
山田
そう感じることもあります。ただ、それを制度のせいにしたいわけではありません。
研究不正の問題や社会的な信頼の揺らぎを経て、今の枠組みがあるわけですから。厳格化は、ある意味では当然の流れです。ただ、その制度を理解し、適切に乗り越えていくための支えがなければ、個人の熱意だけでは続かない、というのが実感です。
建石
研究は、思いつきだけではできません。研究費の確保、体制の構築、データ管理、倫理審査、モニタリング。ひとつひとつは必要なプロセスですが、それらをすべて研究者個人が抱えるのは現実的ではありません。だからこそ、「やりたい」という気持ちが制度の複雑さで消えてしまわないような仕組みが重要だと思っています。
研究の火は、放っておくと消えてしまうことがあります。制度は厳格化していく。それでも挑戦を続けるためには、個人の熱意だけではなく、構造的な支えが必要です。
研者の視点から見た、研究倫理支援室の価値
--- 制度の複雑さの中で、研究の火を消さない仕組みが必要だというお話がありました。その構造的な支えとして、研究倫理支援室の存在をどのように感じていらっしゃいますか?
山田
私自身、臨床研究を進める際に、まず相談する先の一つが研究倫理支援室です。
そもそもどの区分に該当するのか、というところから確認します。倫理指針の枠組みなのか、臨床研究法の枠組みなのか、それによって必要な手続きも大きく変わります。最初の段階でその整理を一緒にしていただけるのは、とても大きいです。
その後の登録や手続き上の書類の整備についても、細かな点まで確認していただけます。正直なところ、研究内容そのものよりも、制度や手続きの部分で迷うことの方が多いんです。そうした部分を伴走していただけるのは、本当に心強いですね。
他の診療科の先生から相談を受けたときにも、「まずは支援室に聞いてみたらどうですか」とお伝えすることがよくあります。お世辞抜きに、研究において研究倫理支援室は欠かせない存在だと思っています。
--- そのように評価していただけるのは、私たちとしても励みになります。建石先生は倫理委員会の委員も経験されていますが、どのように感じていらっしゃいますか?
建石
審査する側に立つと、支援室の役割の大きさがより明確に見えてきます。
委員会に上がる前の段階で、支援室のほうでフォーマット面から、研究計画の整理や修正を行いますよね。そのプロセスがあるからこそ、審査の場では本質的な議論に集中できる。懸念点や不明瞭な部分が事前に洗い出されているかどうかで、審査の質も効率も大きく変わります。
倫理審査というと、「厳しい」「通りにくい」という印象を持たれることもあるかもしれませんが、少なくとも東大の審査は合理的でリーズナブルだと感じています。押さえるべきところはきちんと押さえる。一方で、必要以上に形式だけを求めるわけではない。そのバランス感覚は非常に大切だと思いますし、支援室でも意識されている部分なのではないでしょうか。
--- おっしゃる通りです。私たちも、倫理審査を研究のブレーキにしたいわけではなく、そのバランスを常に意識しています。改めて、研究者の立場から見て、研究倫理支援室はどのような存在だと感じますか?
建石
研究倫理は、研究の“後付け”ではありません。最初から組み込まれているべきものです。最終的にガイドラインに採用されるような研究を目指すのであれば、科学的妥当性だけでなく、倫理的妥当性も同時に担保されていなければなりません。その意味では、研究倫理支援室は研究の質を支える土台の一部だと感じています。
山田
若い研究者にとっては、学びの機会でもあると思います。指摘を受ける中で、「なぜこの手続きが必要なのか」「どこがリスクになり得るのか」を理解していく。最初は大変ですが、経験を重ねることで視野が広がっていく感覚があります。制度が複雑化する中で、研究者が一人で抱え込まずに済む仕組みがあることは、とても心強いですね。
挑戦する研究者の火を絶やさないために
--- ここまで、研究倫理支援室が研究を支える重要な役割を担っているというお話を伺ってきました。最後に、今後さらに研究環境を良くしていくために、研究倫理支援室に期待されることがあればお聞かせください。
山田
まず前提として、支援室の業務負荷が非常に大きいことは理解しています。限られた体制の中で、多くの研究を支えてくださっていることには、本当に感謝しています。
その上で、若手研究者にとって「最初の一歩」がもう少し踏み出しやすくなるとありがたいですね。
研究を始めようと思ったときに、どこに相談すればよいのか、どこから手をつければよいのか分からず、立ち止まってしまうことがあります。ワンストップで相談できる入口がより明確になれば、挑戦への心理的ハードルは下がるのではないでしょうか。
ひな型の共有や初学者向けのガイドがあるだけでも、状況は大きく変わると思います。制度そのものを変えることは難しくても、「どう乗り越えるか」を支える仕組みがあることで、若手の挑戦はより後押しされるはずです。
--- 入口の整備、ということですね。支援のあり方について、他にもお考えはありますか。
建石
研究の規模やフェーズによって、求められる支援の内容は変わってくると思います。
小規模な研究であれば、ある程度は自分たちで対応できることもあります。一方で、多機関共同研究のように、体制構築や運営の高度化が求められる研究では、より専門的なサポートが不可欠になる場面もあります。
そうした段階に応じて、外部資金も活用しながら、より専門性の高い伴走支援を受けられる仕組みがあれば、研究の質はより安定していくのではないかと思います。
山田
若手の段階では、まず研究を立ち上げること自体が大きな挑戦です。そのフェーズでは、基盤的なサポートが重要だと思います。
一方で、研究が軌道に乗り、外部資金を獲得できるようになった段階では、より高度な支援を選択できる仕組みがあってもよいのかもしれません。段階に応じて支援のレベルを選べるようになれば、研究の成長に合わせて支援も進化していく形になります。
そして、成果が出た研究から組織へ還元され、それが次の世代の支援へとつながっていく。そうした循環が生まれれば、研究文化そのものもより強固になっていくのではないかと感じています。
--- 支援室と研究者は、同じ方向を向いているということですね。
建石
そうですね。私たちは同じ目的を共有している存在だと思っています。医学を前に進めるという大きな目標の中で、それぞれが異なる役割を担っている。その役割がより発揮される仕組みを、対話を重ねながら整えていくことが大切ではないでしょうか。
制度が複雑化する中でも、挑戦しようとする研究者の火を消さないこと。そのための環境を持続可能な形で築いていくことが、これからの課題だと感じています。
研究の火は、自然に燃え続けるものではありません。だからこそ、問いを持とうとする気持ちを否定しないこと、そしてその挑戦を支える構造があることが重要なのだと思います。
肝臓チームのリーダーを務めています。私たちは、臨床を行いながら臨床研究を主軸に活動しているグループです。肝臓がんの治療や診断に関する研究に加えて、レジストリ研究なども含め、さまざまなテーマに取り組んでいます。